取引環境を整える vol.1
企業が抱える経営上のリスクは多岐に渡ります。外部要因だけでも天災やSNSでの風評被害、最近ではサイバーセキュリティや物流の2024年問題といったリスクもクローズアップされるようになりました。
そうした中で、中小企業に多い下請事業者において親事業者と適正に取引ができないことは経営を揺るがす大きなリスクといえます。
経済産業省の外局である中小企業庁と地方機関である経済産業局では、取引調査員(下請Gメン)を330名配置して、中小企業者を訪問し、年間1万件以上の取引実態のヒアリングを行っています。
伺ったお話は、適正取引に向けた国や業界のルールづくりに反映させて、発注者と受注者双方が取引における協議や条件見直しができる環境作りに取り組んでいます。
当局では、中小企業者を訪問して伺ったお話の中から「価格決定方法の適正化」「支払条件の改善」「型取引の適正化」「働き方改革のしわ寄せ防止(中小企業の働き方改革に関して)」の4つのテーマについての好事例や悪事例を、11月の下請取引適正化推進月間にあわせてXにてご紹介しましたので、1つずつ解説します。
外部リンク「中国局X」https://twitter.com/meti_Chugoku/status/1857255954372547026
最初に「価格決定方法の適正化」について、Xでは「量産終了後10年ぐらいたって古い部品の注文があり、長い付き合いなので引き受けたが価格は当時のままで対応させられた」という悪事例をご紹介しました。
補給品の単価は量産品の単価よりも高くなることを認識しているにもかかわらず、補給期間において、補給品への移行に係る単価の見直しの必要性について協議をすることなく、価格を据え置くのは下請代金支払遅延等防止法(下請法)上の「買いたたきの禁止」の違反行為に該当するおそれがあります。
令和6年5月に下請法に関する運用基準が改正され、主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた場合は「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」として取り扱うこととされました。
買いたたきについては、下請事業者と十分な協議が行われたかどうか等対価の決定方法、差別的であるかどうか等の決定内容、通常の対価と当該給付に支払われる対価との乖離状況及び当該給付に必要な原材料等の価格動向等を勘案して総合的に判断されますが、特に労務費については
令和5年12月に「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」が策定され、発注者と受注者双方が採るべき行動と求められる行動が示されました。発注者側からの定期的な協議の実施や公表資料を基にした交渉など、指針に沿った行動をお願いします。
価格交渉に際しては、各都道府県の「よろず支援拠点」に「価格転嫁サポート窓口」を設置して、価格交渉に関する基礎的な知識や原価計算の手法の習得支援をしています。また、中小企業庁や埼玉県、業界団体等が支援ツールをHPで公開していますのでご活用ください。
外部リンク「中小企業庁HP」https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/shien_tool.html
外部リンク「埼玉県HP」
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0801/library-info/kakakukoushoutool.html
外部リンク「日本自動車部品工業会HP」https://www.japia.or.jp/topics_detail/id=3938
価格交渉といえば難航するイメージを持たれているかもしれませんが、サプライチェーン全体の付加価値向上、大企業と中小企業の共存共栄を目指し、「発注者」側の立場から「代表権のある者の名前」で宣言する「パートナーシップ構築宣言」を行う企業も増えており、以前よりハードルは下がってきています。
外部リンク「パートナーシップ構築宣言」
https://www.biz-partnership.jp/
交渉の前提となる製品別の原価計算ができていない事業者もいまだ多く、交渉で身につくノウハウは新規開拓や提案営業にも役立ちます。親事業者から毎年原価低減要請がある業界などもあるようですが、自社の足腰を強くする契機と捉え、積極的に価格交渉に取り組みましょう。
<後半に続きます>
https://chugoku-meti-gov.note.jp/n/nc1b1a924a6c3